Interview with 大和哲也&梅野源治

それぞれの世界一の『称号』を目指す男達

posted : 2017/11/06

ムエタイ路線から再びK−1に転向した大和哲也の所属する合氣道サークル『岳心塾』に、日本ムエタイ界の至宝、梅野源治が体験入門。インタビュアー佐藤嘉洋が二人のトップファイターに話を聞きました。

それぞれの世界一の『称号』を目指す男達

梅野源治が『岳心塾』に来るだと!?

岳心塾とは、達人・山本岳見の合氣道を日高塾長が言語化し、「受け身のスペシャリスト」志文(しもん)氏がより技を明確化させ、大和哲也を代表とする選手たちが、キックボクシングに合氣道の理論を融合させた「合氣ック」を実践する少人数サークルである。そこへ日本ムエタイ界の至宝とも呼ばれる梅野源治が東京からわざわざ名古屋へ来ると聞いた。私は居ても立っても居られずに道場へと足を運んだ。

 

佐藤嘉洋(以下・佐藤)「梅野選手が今日合氣道に来ることになったのは、東京での食事会がキッカケなんだよね」

大和哲也(以下・大和)「はい、『梅野選手は思い悩んでいる』って心配してしまって……」

梅野源治(以下・梅野)「実は4月、5月で引退を考えていたんです。自分はもう終わったと思っていて。でも、周りが『まだいける!』『諦めるな!』と。それでもう一度がんばってみようって」

大和「そこで合氣道にお誘いしたら『ぜひ体験させください。僕は言ったことは必ず実行します。10月中に必ず行きます!』って」

佐藤「おお!」

大和「それで今日の初稽古が実現したと。人生というものはすべて繋がっているんだなあって。自分も合氣道に出会って蓋が開かれて、心と身体の動かし方を学んだ。(梅野選手にとっても)今日の合氣道との出会いは必然なのかなって」

佐藤「合氣道との出会いの境遇も、二人は似ていますよね。でも、まさか(梅野選手が)引退まで考えていたとは……」

梅野「半端じゃないくらい怪我をしてしまったんです」

佐藤「あれだけ強い選手と戦い続けていたら仕方ないですよ。そんな中、合氣道をやってみた率直な感想はどうでしたか?」

梅野「大和(哲也)選手の合氣道の動画を最初に見たとき、やらせなんじゃないか、わざと転んでるんじゃないかっていうのが第一印象でした。でも、やってみると、あれって本当だったんだっていうのがわかりました。やられないよう力いっぱいこらえているのに、転ばされる」

 

大和「最初は基本動作からやりました。すでに姿勢から変わってきています」

梅野「氣の力とか、正直言って信じていませんでした。でも、氣を集中させて、体制を整えて、言われたとおりにやってみたら崩されなかった。気持ちと姿勢だけで力の入り方がここまで違うんだな、と身を持って実感できました。驚きですね」

大和「ですよね(笑)だから、心と身体の統一体を作るところから始めたんです。ここを体感するだけでも違いますから」

佐藤「『心の持ち方』ということを哲也はいつも言っているけど、合氣道においてはどのようなことが重要なんでしょうか?」

大和「(山本)岳見先生がいつも言われていることなんですけど、合氣道っていうのは字のごとく、氣を制することで自分の心と身体をコントロールすることができるんです。そうすれば相手の氣も制することができる。相手との間合いも変わってきますよね。厳しい勝負の中でも氣を知っておけば、常に冷静でいられる」

佐藤「試合中の梅野選手からは、負けん気をとても感じるんですけど、どうやって合氣道の氣を活かしていきたいですか?」

梅野「試合中に感情的になってるでしょって、周りには言われます。でも、今までほとんど言ったことないんですけど、試合中は冷静なんです。実は細かくいろいろ考えていて……。わざと感情的に見せることで、相手の精神を揺さぶるというか。別にムキになっているわけではなくて、そういう風に見せているだけなんです」

佐藤「実際はものすごい駆け引きをしてると」

梅野「合氣道はそれとはまた違って、より無に近い感じ。ちょっとでも意識とか気が逸れると崩されてしまう。心が一切波立たないようにした方がいい、と身を持って実感できました」

佐藤「大和哲也なんかは合氣道をやり始めて、ものすごく精神面が成長したって」

大和「昨年クンルンファイトで負けたときは、合氣道を学んでいたのに、『倒してやろう』って気持ちが空回りしちゃってペースを崩して負けてしまいました。いい面と悪い面の両極端を知れたので、今は精神的に安定して戦えるようになったなあって。でも、終わりなんてないんで、今は(気持ちを)鎮(しず)めて鎮めて、という意識です」

佐藤「お二人の次戦について聞かせてください。まずは11月23日のK-1で中澤純選手と戦う大和哲也選手から」

大和「印象的には中澤選手はまさに『剛』の戦いをしてくる。それに対して僕はいかに『柔』の中に『剛』を見せられるか。剛に対して剛で行くつもりはない。柔らかい中に一撃で仕留められるものを見せることが、自分のベストなんで。向こうは退いてくるような試合はしてこないはず。いかに相手と向き合って戦うか。こちらが波立たなければ相手がどう来ようが関係ないです。相手に対して動揺せずにいつも通り戦えば、負けることはない。自分に勝てば相手にも勝てる。ブレのない精神を持ちたいです」

佐藤「11月24日のREBELSで、ルンピニー(スタジアム)の現役ランカーと戦う梅野選手はどうですか?」

梅野「9月のスアレック戦をなんとかクリアすることができてよかったです。もしここで負けてしまっていたら、ムエタイのトップクラスにはもう勝てない。それで今回は、今の自分の夢であるルンピニーのタイトル戦に繋げるためにも、ルンピニーのランキングに入っている選手と戦うことになりました。ムエタイに詳しい人だったらわかると思うんですけど、1位でも9位でも同じように強いんですよ」

佐藤「よくわかります」

梅野「ランキングに入ってさえいれば、みんな相性の問題だけであってほぼ強さは同じ。次の対戦相手も、首相撲とミドルキック中心に戦ってくるタイプで、身体が強い選手。KOするのはなかなか難しい相手じゃないかってうちのトレーナーも言っています。こういう相手にしっかり勝てば、もう一度タイで再評価してもらえる。5月にタイで大差で負けてしまって、日本でしか強い相手に勝ってないじゃないかって思われているんで、来年は現地でも戦って結果を残したい。そして夢のルンピニーのタイトル戦にも繫げていきたい。だから今回は、何度も言いますけど、自分の夢に繋がる、世界最強を目指して行く第一歩の試合になるんじゃないでしょうか」

佐藤「去年(ゴング格闘技で)対談したとき、自分のやりたかったスタイルと、トレーナーが推奨するスタイルと少し食い違っていた時期がありましたよね。現在は、どちらに合わせる感じですか?」

梅野「今はキックボクシング的なパンチとローで行く方に合わせていますね。過去に3回連続ヒジでダウンをしていた時期がありました。そのあとも負傷判定とかいい結果が出なかった。そこで、自分のスタイルを変えたいんだって、トレーナーとぶつかってしまった時期がありました。でも、それでは結果が出なかった。なので、もう一度イチから教えてくれって頭を下げたんです」

大和「うちの会長は感覚で教えているので、詳しいことはあまり言わないですね。感覚的なんです」

佐藤「感覚的というと?」

大和「シンプルなんです。選手に考えさせる指導をする。梅野選手とトレーナーとの話を聞くと、綿密に計算してやっているんだなって」

佐藤「哲也のところは、選手主導で考えさせて、あくまでトレーナーは選手の力を引き出すというスタイルだね。この部分に関しては、梅野選手と現役時代の僕の練習環境は似ているところがあります」

梅野「最初からいろいろ教えてもらったわけではないですけどね(笑)」

大和「梅野選手の力が周りを動かしているんじゃないですかね。何か大きなことを成し遂げて行く人って、周りの人を巻き込んで行きますから。自分が台本の中心にいるような」

大和「梅野選手とはWBCのベルトを一緒に獲った仲。今は僕がK-1に行って梅野選手はムエタイのルンピニー(スタジアム)の頂点を目指していて、進んでいる道は少し違うので、なかなかお会いできなかったですけど、今日はこうやって一緒に練習ができて……」

梅野「運命ですね(笑)今回の経験が、選手としてもう一段上に行くための良いキッカケします」

佐藤「哲也はムエタイからK-1へと戻ってきたわけだけど、自分の転換期はどんな気持ちだったのかな」

大和「いろいろなところからオファーがあって悩みました。嫁さんにも相談しました。でも、『本当は答え出てるんでしょ』って。それで、自分としてはK-1で名を上げたんだから、やっぱりもう一度K-1に上がりたい、と。もともとキックをやり始めたのはK-1がキッカケでしたしね」

佐藤「梅野選手はずーっとムエタイじゃないですか。ムエタイルールで戦い続けてきましたけど、ウティデートに勝って一躍名が上がったあたりからのご自身の心境を教えてほしいなと」

梅野「ウティデートには絶対にKO負けをすると言われていました。その相手にKOで勝つことができて、タイでも名を知られるようになりました。ムエタイのチャンピオンクラスって雲の上の存在だったんで、俺は本当に勝ったのかって(半信半疑だった)。でも、まだまだ強い選手は他にもいたし……」

佐藤「僕の先輩に鈴木秀明という人がいて、その選手時代の名言があります。『ムエタイは金太郎飴と一緒だ。切っても切っても強い選手がどんどん出てくる』って(笑)」

梅野「あの選手に勝ったから俺が一番だって言えないんですよね。知名度のない選手に負けることもあった。勝ったり負けたりです。金太郎飴状態というのはよくわかります。トレーナーは、首相撲の選手だろうが、パンチャーだろうが、テクニシャンだろうが勝てるようにならないと本物じゃないと……全部できるようにならないとダメだって。だからこそ、ラジャやルンピニーやKnockOutなどにも出た。そこで共通して言えるのが、強い選手とやりたいってことなんです」

佐藤「ここ2戦はREBELSが続きますけど、その理由も同じ?」

梅野「はい、それが自分の夢にも繋がるから。現役生活において全盛期って限られてるじゃないですか」

大和「そうですね」

梅野「有名になりたいとか、お金が欲しいとか、僕はそこからムエタイを始めていなかった。とにかく世界一強い男になりたいっていうのが、この世界に入った理由なんで。知名度やお金で動く人間にはなりたくない。仕事なんだから収入の部分も求めるのは当たり前ではあるんですけど、だったらお金は違う方法で稼いでやるぞって。もちろんムエタイで稼げるのがベストなんですけど、お金をいっぱいあげるからこうしてくれとか、自分の夢を変えてまで人に迎合したくない。夢で始めたことなんで」

佐藤「世界で一番強くなりたいっていう夢は、ラジャのチャンピオンになったことでは満足できなかった?」

梅野「この選手に勝ったから本当に世界一なのかって、結論としてはないって(笑)そこで終わりじゃなくて、上には目指すとこがあって」

大和「わかります」

梅野「これ獲ったら一番だ、なんて満足したら、俺は終わっちゃう。やっぱり、自分でゴールを定めて……」

佐藤「ゴールとは?」

梅野「僕はムエタイの世界では、凄いなというベルトが3つあって、それがラジャとルンピニーとWBC。次、ルンピニーを獲れば、この3つのすべてを制覇することになる。でも、それで世界一だ!と言えるかといったら、実際に僕は4月と5月に負けてるわけで……これからどんどん強い選手も出てくるだろうし」

大和「それは僕も思いました。WBC獲ったら世界チャンピオンって言えるんだって。でも、(チャンピオンに)なってみたらなってみたで、まだ下のランキングにいる選手全員に勝ったわけじゃないし、WBCを獲ったから世界一っていうわけじゃない」

佐藤「引退した僕から2人にアドバイスがあります。僕は梅野選手と一緒で、常に世界一を目指していた。そして最後の試合で、前の試合よりも自分は弱くなった、と感じたんです。もう世界一を目指せないって。僕は強さで魅せて来た選手だったから、ここで自分に嘘ついて戦い続けたらファンの人を裏切ることになる。だから引退を決めたんです」

大和「追い続けてもキリがない部分もありますしね」

佐藤「梅野選手が言ったように、ラジャとルンピニーとWBCを獲ったって、まだ先はある。つまり、夢は叶わない。勝っても勝っても、下から10歳、15歳若いのがどんどんどんどん出てくる。最後の最後の夢は叶わずに終わるんだなって。でも、夢は叶わなくてもいいんです。夢を追っかけているうちは成長できるし、少なくとも活き活きとしていられる」

大和「人生は素晴らしいですね」

佐藤「『夢は蜃気楼説』っていうのを提唱しているんだよね。追いかけている夢は近づくと目標に変わっていて、その頃にはまたその先の夢を見ている。だから、追っかけても追っかけても夢は逃げていくんだと」

梅野「そうですね」

佐藤「だから僕は、2人にはぜひ、夢を追っかけたまま現役生活を駆け抜けてもらいたいなと願っております。そして、最後には大きな挫折をして引退してください(笑)」

一同「(笑)」

梅野「僕がさっき言ったゴールというのがわかりました。僕は現役を終えたあと、自分で自分を誇りたいんです。『俺はこれだけがんばってきた!』って言い切れるように」

大和「僕がイメージするのは、ただ強いだけじゃない、人間的にもチャンピオンと呼ばれる、チャンピオン中のチャンピオンになること。まずはお互い世界一の『称号』を僕はK−1で」

梅野「僕はルンピニーで」

大和「目指しましょう!」

11月23日のK−1で大和哲也と戦う中澤純は、あの難敵・左右田泰臣を僅差で振り切った強豪だ。公開練習で中澤は不敵に笑った。「大和はブレている」と。そして大和哲也は「昔は迷ったり、ブレたりしたことはあったかもしれないけど、今はブレていない。覚悟と信念を持ってK−1で戦っている」と返した。

その翌日24日には、梅野源治が自身の夢・ルンピニースタジアムのタイトル戦に繋げるために、ルンピニーの現役ランカーと対戦する。いっときは本気で引退を考えていた男が、再度自分の夢に向かって立ち上がった。

この二人に共通して言えることがある。それは栄光と挫折である。

 

栄光…
困難を克服して大事業を成し遂げた時の、金では買えない喜び・誇らしさや、高揚した心の状態。

挫折…
〔目的を遂げる前に〕途中で失敗し、だめになること。

#辞書の旅

 

そんな二人の光を観て、23日はさいたまスーパーアリーナのK−1と、24日は後楽園ホールのREBELSへと連日向かい、私は客席から何かを感じ取りたい。これを読んでくれたあなた、会場でお会いしましょう。原稿料は特にありません。自己満足です。でも、

 

「なかなか良い組み合わせで、なかなか良いインタビューだったよ」

 

と感じていただけて、金銭的に少し余裕のある方は、もしよかったら佐藤嘉洋空き巣記念「ただじゃ終わらねえぞ」Tシャツはいかがでしょうか。

佐藤”打算的”嘉洋です。よろしくどうぞ。

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