Interview with 健太2 / 2

Y字サスペンダーの意地

posted : 2015/05/18

同じ選手だからこそ聞ける格闘技のこと。そして、格闘技以外のプライベートにもぐいぐい迫る、格闘家であり作家でもある佐藤嘉洋だからできるインタビュー企画。第一回に登場するのは格闘技界随一の美ボディの持ち主、“ハミケツ”健太選手です。

健太 「『Y字サスペンダー』という水着を知っていますか? 後ろを向くと、Yの字になってるんですよ。そこから一本に繋がって……」
佐藤 「実際に絵に描いてもらっていいですかね?」

健太は爽やかな笑顔で「いいですよ!」というと、ペンとノートを受け取った。
そのときの絵が、これである。

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健太 「これが僕の後ろから見た姿ですね。ケツがあって、こうなってると。これが後ろから見た姿で……」

佐藤 「これって……具の部分はどうなってるんですか?」
健太 「具は……前から見ると、こうやってVの字ができてるんですけど、ココですね。ココの部分に引っかけて止まってるだけなんです。だから、ちょっとでも屈むと、具がモレちゃうんですよ」
佐藤 「コレじゃ、海に入れないじゃないですか」
健太 「そう、だからずっと胸を張りっぱなし(笑)。この姿で海に行ったとき、僕を格闘家であることに気付いたヤツは誰もいなかったですね……快感でしたけど。へへへ(笑)」

このとき、健太の目は嬉しそうに潤んでいた。その艶っぽい表情を横目に、一方で私は露出に対して「限界に挑む」という彼の姿勢こそが、勝負に対する執念を生んでいるのではないかと考えていた。私と対戦したときの最終ラウンドの彼の執念は、「Y字サスペンダーの意地」だったのではないか、と。「限界に挑む」という姿勢は、人の心を激しく揺さぶるのだ。

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「健太」という選手を初めて生で見たのは、「K‐1 World MAX 2011」の日本トーナメントだった。このとき、彼は準々決勝で優勝候補の城戸康裕と拳を交え、戦前の予想を覆す値千金の金星を飾った。左フックでダウンを奪ったとき、健太の尻はハミ出ていた。
準決勝、これまた優勝候補の山本優弥との試合はまさに死闘であった。左のハイキックで山本からダウンを奪った瞬間も、健太の尻の曲線は美しくプリンとしていた。この試合は、延長戦にもつれ込んだ。コーナーに戻ったとき、ボロボロの健太は「もう試合を止めてくれ」と思ったという。しかし、彼は「限界に挑む」ことを選んだ。 これぞ「Y字サスペンダーの意地」。
この試合を裁いていた御座岡レフリーは、目の前で繰り広げられたあまりの激闘に、涙を滲ませながらレフリングをしていた。 私はそのとき、ニコ生中継のゲスト解説者として大会に呼ばれていた。その際、健太の闘いっぷりに熱中するあまり、試合の生放送中だったのにもかかわらず「ハミケツ、ハミケツ!」と無意識に連呼していた。結果的に格闘技ファンに対して、「健太=ハミケツ」というイメージを植え付けることになったのは言うまでもない。
健太は間違いなくこの大会を盛り上げた立役者の一人だった。が、この大会の影響は限定的なものだった。当時のK‐1からは、すでに巨大メディアである地上波放送が撤退していて、メディア上での影響力を失っていたからだ。もしテレビで放送されていたら、健太の人生は大きく変わっていたかもしれない。テレビ局の人間ならば、目の前の健太の強烈なインパクトに飛びつかないはずがない。
以前のK‐1のように、「出れば人生が変わる」状態をキックボクシング業界が取り戻すにはどうすればいいのか。健太に訊いてみた。

佐藤 「健太選手はキックボクシングというスポーツを、もう一度世に出すためには何をしたらいいと思いますか」
健太 「……どうしたらいいのか、逆に訊きたいですよ。まあ、キック界には日本チャンピオンが何人もいるじゃないですか。もしそれを統一できるぐらいの強い組織力を持ったコミッションがあって、きれいなピラミッドを作ることができたら、トップにのぼり詰めた人間は食っていけるんじゃないのかな、とは思います……難しい話でしょうけどね」
佐藤 「何が難しいんでしょうね。何が原因でそれを妨害しているんでしょうか?」
健太 「それは、やっぱり……僕が聞いた話だと、興行って儲かるらしいんですよね。だから、それぞれの団体が自分たちで興行を打ちたいんじゃないのかなって。その結果、どんどん団体が分裂していって……。あと、僕の所属するニュージャパンキックボクシング連盟って、どんな格好で計量をしに行っても、まったく構ってくれないんです。本当は僕のこの美しい裸体を、もっとクローズアップしてほしいんだけど……」

そう言って腕を折り曲げ、健太は自分の上腕二頭筋のキレの良さを、少しトロンとした目で確認した。彼のピチTからはうっすらと乳首が浮き出ていた。
コイツ、本物だ。水道橋の取材現場で、私は思った。

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健太が言った「興行は儲かるらしい」という話を、私はこのとき初めて聞いた。
そもそもファイトマネーというものは、一部の選手を除いて、チケットでの支給が当たり前になっている。確かに、このビジネスモデルなら小銭稼ぎ程度はできるかもしれない。だが、たとえその仕組みで利益を出したとしても、それは本当の成功ではない。当然、興行主たちもこの現状に満足しているとは思えない。
一方健太には、ファイトマネーの壁という問題が重くのしかかっている。現在彼は、不動産会社に勤めながらプロのキックボクサーとして奮闘しているが、毎月の収入はサラリーマンとしての稼ぎの方が圧倒的に多いのだ。
健太はきれいに剃毛された手でオレンジジュースを掴み、前を見据えて言った。
「チャンピオンなら、キック一本で暮らしたい」
私はこの言葉こそ、現在の日本の格闘家たちの真理をついているように感じた。
この企画を通じて、私は様々な問題提起をしていきたい。私はキックボクシングをビッグビジネスにしたい。それこそ私自身が「Y字サスペンダーの意地」を身につける覚悟を持って。健太も私も様々な問題を抱え、悩み、困難な現状をなんとか打破したいと考えている。その想いは関係者にとっても根本的には同じだと信じている。

一方、私の当面の問題には、健太がしれっと口にした「パイパン」のことがある。欧米のパイパンたちに負けてはいられない。日本男児も今やムダ毛を意識すべき時代が到来している。格闘技界が盛り上がり、再び影響力のあるメディアに返り咲いたそのときには、ぜひパイパンの先輩である健太に剃毛に関するノウハウを色々と相談してみたい。 彼の美意識は私にとって大変刺激になった。
キック界への問題意識と身体への美意識が芽生えたインタビューができて、私自身大変有意義な時間を過ごすことができた……と思う一方で、「剃毛はハードル高いから、とりあえずのところは下半身の脱色から始めてみるとするか……」とこの原稿を書きながら決心した。今、私のMacの隣には、早速薬局で買って来た脱色クリームが置いてある。

*****

取材の翌日、健太は負けた。
実はこのインタビューを行ったのは、彼の試合前日。にもかかわらず、快く取材を受け入れてくれた健太に、取材陣を代表して深く感謝をしたい。
この試合はWBC日本ムエタイウェルター級タイトルへの挑戦者決定トーナメントの準決勝だった。健太はムエタイ特有の技である首相撲によって、対戦相手に「Y字サスペンダーの意地」を封殺され惜敗した。
現在のキック界には大まかに分けて「K‐1ルール」と「ムエタイルール」の2つが混在している。これは、野球とソフトボールがまったく別の競技であるのと同様、ルールに大きな違いがある。また、「大まかに」と言っているだけで、細かく分ければ各団体によっても少しずつ内容が変わってくる。選手にとってもファンにとっても、非常に分かりづらい現状が今のキックボクシング業界なのだ。

 

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9月21日に健太は再び試合を行った。私を破ったKrushのリングだ。拳を突き合わせた者として、ただただ健闘を祈った。結果としては、健太は見事に勝利を収めた。本人は後日、Facebook上で「世紀の大凡戦をしてしまった」と反省しきりではあったが、この勝利でKrush-67kg級のタイトルにぐっと近付いたのではないだろうか。Krush史上初の二階級制覇なるか?
個人的にはvs久保優太、vs野杁正明、という対戦には大変興味がある。本人も最初は敬遠するかもしれないが、いざ試合が決まれば覚悟を決めて「Y字サスペンダーの意地」を見せることだろう。

 

※このインタビューは2013年7月に収録されたもので、
健太選手は2014年に「87キックフィットネスクラブ」をオープンしています。

http://87kick.com/

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