Interview with 健太1 / 2
Y字サスペンダーの意地
同じ選手だからこそ聞ける格闘技のこと。そして、格闘技以外のプライベートにもぐいぐい迫る、格闘家であり作家でもある佐藤嘉洋だからできるインタビュー企画。第一回に登場するのは格闘技界随一の美ボディの持ち主、“ハミケツ”健太選手です。
私は現在、プロのキックボクサーである。その現役選手が同じ現役選手にインタビューするという、一風変わった企画を考えた。せっかく念願の作家デビューも果たしたし、他の人にはできない角度からも格闘技業界を盛り立ててみたいと思ったのである。
この企画の話が持ち上がったとき、真っ先に浮かんだのが健太だった。私と健太は、2013年に拳を合わせた。1月に行われた「Krush・26」のことである。私は、その試合に敗北した。スポーツ誌をはじめ「健太、大金星」の文字がキック界を駆け巡った。おかげで、ひどいドン底の気分を味わった。
そんな個人的な想いの強い選手だからこそ、新しい企画の対談相手としてふさわしいのではないか。純粋にそんなことを考えた。
当初、私は健太のことを見た目だけで判断していて、「ただの変態野郎で、礼儀知らずな人間なんじゃないの!?」と、勝手に変な勘ぐりを持っていた。
ちなみに、健太の見た目といえばこうである。計量時に臨むコスチュームは、その中に潜んでいるジャパンスネークセンター(健太の出身地である群馬県に所在するヘビ専門の動物園)の毒蛇コンテストで見事3位に輝いたマムシが、今にも飛びかかってきそうなビキニパンツ。試合中に穿いているのは、日曜夕方に放送される家族アニメの次女[1]が毎日身につけている挑発的なミニスカートのようなキックトランクス。そして、キックをするたびに、アンダーウェアのTバックとプリンとしたお尻のハミケツが大胆に露わに……と、強烈なインパクトなのである。
しかし、いざ取材申請の電話をしてみると、その予想は簡単に打ち崩された。
「はい!かしこまりました!」と歯切れのいい返事をする、爽やかな電話対応なのである。「誹謗中傷なんでも書いてください!」と大変気持ちのいい言葉まで。
好青年……なおかつ変態。新企画の童貞を捨てる相手を健太に選んで良かった。君のためにチェリーを捧げよう。
気をよくした私は、「彼からしてみたら先輩選手」であることをいいことに、取材当日、ちょっと強気にこんな意地の悪い質問から始めることにした。
佐藤 「童貞を失ったのはいつですか?」
健太 「17歳のときの冬です」
即答も即答である。さすが好青年&変態・健太なのである。
ちなみにこの質問は、今後格闘家と対談するにあたっての、私の中の「共通質問項目」のひとつになっている。
彼の爽やかさにうろたえつつも、私は質問を続ける。
佐藤 「童貞を失った時期については、言えない人は、言えないと思うんですけど……一応みなさんに聞こうと思っているんです。ちなみに、健太選手の場合、相手は彼女だったんですか?」
健太 「彼女です。そんなに長くは続かなかったですけどね」
佐藤 「じゃあ、一発やっただけで……」
健太 「いやいやいやいや(笑)」
佐藤 「じゃ、何発か……」
健太 「……どちらかというと、彼女のほうがエロかったというか、痴女だったというか。年齢も1個上でしたし」
エロい彼女——。その崇高な言葉の響きに、思わずありとあらゆる想像を巡らせてしまう私。 刹那、スイッチが入った。
佐藤 「痴女! しかも年上!! 高2のときの高3の女子って、半端なく『大人の女』じゃないですか!!」
健太 「2年生のフロアに、かわいくて有名な彼女が降りてきて『健太っている?』って声をかけられて。逆ナンですよね、いわゆる」
佐藤 「絶対、北川景子みたいな超美人の先輩でしょ!? 今俺の中では北川景子が『あなた、噂によるとちょっとおケツがプリンってしてるらしいじゃない? あたしにアドレス教えなさいよ』って言ってる姿を想像してるからね! ああ、半端ない、なんて素晴らしすぎるんだ……!!」
取り乱した気持ちをなんとか落ち着かせ、改めて冷静に話を聞いてみると、実際の彼女は、北川景子というより「派手めなメイクの浜崎あゆみ」タイプだったらしい。どちらにせよ、健太の高校時代は私にとって刺激的すぎた。そのおかげで、取材中の私の頭では「マジカヨ」「チクショー」「ウラヤマシー!!」という3つの単語が、まるでDD(童貞同盟)に加盟している中学生のように、何度も心の中で鳴り響いた。 そんな状況、マジでズルいぞ、健太。
佐藤 「……話を戻しまして、好きな女性のタイプは?」
健太 「黒ギャルです。黒ギャルのハーレムセックス系の動画なんてたまんないッスね。乱交って、今まで経験したことないんで(笑)。特に好きなのは、パイズリしながら口でもしてくれるヤツ。だから、きれいでおっぱいが張ってる人って大好きなんですよ……最高っす!!」
佐藤 「お気に入りのAV女優もいたりするんですか?」
健太 「そういうわけではないんですけど……あっ、でも、Rioはヤバいッスね。実は、大学が一緒で、同じキャンパスに通ってたんですよ」
佐藤 「マジッスか! 俺、マジで大好きなんですよ!!」
健太 「マジで、かわいいッスよ!」
佐藤 「マジかよ、おい……!!」
取材陣のテンションが今日一番を記録。私も、取材を同行した担当編集者も、胸の高鳴りを抑えきれなかった。そして、健太自身も大学時代の思い出にふけって、大変興奮している様子だった。 キャンパスでRioを見かけたとき、健太はその足でそのまま大学近くのレンタルショップに駆け込んだという。しかし、健全なる男子の考えることは皆一様に同じだった。そこに彼女のDVDは一つも残っていなかったのだという。空のパッケージが清然と並んでいる光景が容易に思い浮かぶ……。
互いに、緊張はほぐれたが興奮している状態。全員がニヤニヤしていたのは、リラックスしていただけではないだろう。そこにはエキサイトという感情もあったはずだ。全員の心が一つになった瞬間といっていい。こういうのをシンクロニシティって言うんでしょ。
よし、準備はOKだ。ここぞとばかりに、私は核心に迫った。
佐藤 「そもそも、計量時にビキニを履くのは、やはり女性に見てもらいたいからなんでしょうか」
健太 「それがすべてというわけではないんですけど……」
佐藤 「というと?」
健太 「僕、人に見られるのが昔から好きだったんです」
人に見られるのが好き、というのは理解できる。だからと言って、人前であれほどまでにビキニ姿をPRできるものなのだろうか。しかも、恥じらうことを一切なく。仮に、できるとしたら、よほどのナルシストだろう。 もしくは健太が真のド変態か、である。
佐藤 「周りから見られたいという願望は具体的にいつから持ち始めたんですか?」
健太 「高1からですね。僕は、小さい頃からジャイアンタイプだったので。基本的にマイクを持つのが好きで、舞台に立つチャンスがあると、率先して手を挙げていたんです」
佐藤 「ジャイアンって、ある意味ナルシストですよね」
健太 「だから、ビキニを履くのも、そういったナルシズムを大事にした結果なんだと思うんです」
佐藤 「なぜ、そこまでビキニにこだわるんですか?」
健太 「やっぱり、面積は少ない方がいいんですよね。限界に挑む、っていうか。ほら、人に見られる以上、美しいカラダをいつも見せたいじゃないですか。だから、ムダ毛処理とかカラダのメンテナンスには人一倍気を使っているんですよ。だから、パイパンですしね、僕(笑)」
地元が名古屋ということもあり、私は縁合って名古屋グランパスの選手とも繋がりがある。クラブからは欧州リーグで活躍する選手も数名輩出しているのだが、その選手たちと共通の友人を通じて飲んだり遊んだりすることもある。そのときの会話で衝撃を受けたのは、あちらのリーグでは「パイパンがデフォルト」ということだった。その話を聞いてから、名古屋の友人連中はこぞってパイパンにした。パートナーのいる友人は、夜の営みのときに「彼女が妙に興奮しとってよー!」と口角泡を飛ばす勢いで語った。
パイパンかあ……パイパン、パイパン……。
「佐藤さん……佐藤さん!」
無毛世界の空想へと飛んでいた私を健太が呼び戻した。「ところで……」と口にしながら健太が誇らしげに続ける。