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想いを志に

posted : 2016/02/22

日本キックボクシング選手協会を発足していくにあたっての想いと志を語りました。

あなたは江口満という人を知っていますか? 別名『隊長』という愛称でも親しまれていました。キックボクシングファンの一部では、「実況ツイート」として大会の詳細をつぶやく人として有名でした。キックボクシングの選手も知っている人が多いのではないでしょうか。

私にとって江口さんは、恩人の中の恩人でした。そしてまた、私にとって真の理解者でもあり、心友でもありました。私は、現役最後の姿を江口さんに見せることができませんでした。私の人生における大きな後悔の一つです。江口さんは、ある日突然、風のようにこの世を去りました。

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私は、2009年4月の世界トーナメント初戦で、ドラゴに延長でまさかの敗戦を喫しました。そして、その3ヶ月後にユーリ・メスという超強豪と戦うことに。若干優位に試合を進めていたものの、2戦連続で延長戦にもつれ込みました。ドラゴ戦で乗り越えられなかった試練を神様からまた与えられたような気がしました。非常に厳しい試合でしたが死に物狂いで戦い、2−1の判定で薄氷の勝利。延長はユーリ・メスの勝ちじゃないか、という声も聞きます。判定が割れたのは間違いないでしょう。本当にギリギリの勝利。自分の格闘家人生の中で、とても大きな一戦となりました。

ただし、ドラゴ戦という大事なところで勝ち星を落とした自分は、格闘家としての信用も同じように落としていました。ファンからは「やっぱり佐藤じゃ……」とため息をつかれ、TV局からもそっぽを向かれる始末。だから、ユーリとの試合が地上波に乗ることはありませんでした。私の中では名勝負だったとしても。

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しかし、この周囲への影響力が小さな勝利でも、誰かに生きる希望を与えることもあるんですね。それが江口さんでした。自身の境遇と私とを重ね合わせ、深く共感し、精一杯生きていこうと感じてくれた江口さんは、いずれ私のサポート役に回りたいと決心し、実際に2010年から私を後方支援してくれるように。

それをキッカケにして、江口さんはキックボクシングにのめり込んでいきます。毎週土日には、どこかのキックボクシング興行(晩年にはバイオリンライブも含まれる)で実況ツイートしていたのをご存知の方もいるでしょう。また、激励賞という金一封を隊長名義でもらった選手もいるのではないでしょうか。見も知らぬ人からいきなり激励賞をもらった選手は、さぞかしビックリしたことでしょう。そして嬉しかったことでしょう。

江口さんはこの世を去りました。けれども、その想いはこの世に残り続けています。選手の気持ちを考え、彼らを支えること。私はその想いを継いで志にすることにしました。

私は、日本キックボクシング選手協会の発足のため、一歩踏み出します。

選手同士で横の繋がりを作り、選手側の意見もジムや団体に伝えられるような機関にしたい。プロスポーツとしての地位向上のためには必要不可欠な存在でしょう。

私は、キックボクシングの大会をいつまでも単なるイベントで終わらせたくないのです。しかるべき「競技」として認識を広めたいのです。それは多くの関係者も同じ想いではないでしょうか。選手は、イベントのための捨て駒ではありません。試合を組む以外にも、メディア露出や仕事の斡旋など選手の価値を上げることや、あるいは引退後の不安を解消する方法は、いろいろと考えられるはず。「そんな甘っちょろいことを。俺たちの若い頃は……」という先輩方のお気持ちもわかります。でも、昔の劣悪な環境の中で生き残れたのは、ほんの一部中の一部。キックボクシングがメジャースポーツに程遠い地位にあることは、誰もが認めるところです。そして、キックボクシングの地位向上は誰もが願うところです。そのためにも、選手協会は必ず必要な機関になります。

江口さんに感謝している選手は、きっとたくさんいるでしょう。あくまで他人、格闘技の外側にいるという立場で、あの人ほど選手の味方だった人もいないのではないでしょうか。上から目線でただ文句を言いたいだけ、もしくは自分の理想論を振りかざして悦に入って満足しているのではなく、その根底には確かな愛がありました。

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その人の想いが誰かの胸の中で生きていれば、そして、その想いを志にして歩み始めたならば、それはすなわち、その人自身が生きているのと同じなのではないか。ディファ有明から新橋までの道すがら、そして汐留の高層ビルを見下ろし、同じ日本とは思えない夜景たちを眺めながら、私はふと、そう確信したのです。

この選手協会の設立は、私ができる江口さんへの恩返しかもしれません。彼はいつも、選手のことを第一に考え、選手が一番輝いてほしいと願っていました。だから私も、江口さんと同じように、団体でも、ジムでも、ファンでもなく、最終的には選手の味方でありたい。そう決めたのです。

2015年の3月9日に、江口さんはこの世を去りました。ツイッターのプロフィールには、死後の今でもこう記されています。

「我が人生、愛して止まぬ素晴らしきものたちを盛り上げることと見つけたり」

あなたの想いは死んでいない。その志、しかと受け継ぎます。2016年3月9日の一周忌に、日本キックボクシング選手協会の設立に向けて、第一回の会合を水道橋で行います。ということで、格闘技関係者の方々に、参加をお願いしたく思います。すでに10人以上の参加表明をいただいており、その中には弁護士、司法書士などの専門家も加わる予定です。現役選手は、無駄なトラブルを避けるため匿名での参加になります。2月23日発売のGONG(ゴング)格闘技 2016年4月号のコラム『佐藤嘉洋のキック千一夜』でも綴りましたが、まだ発足もしていない構想段階から無理やり参加させて不利益を被らせては、選手協会の本来の意義を失うからです。

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しかしながら、江口さんのキック界への功績に敬意を表し、勇気を持って意見してくれる、ということであればぜひ参加してください。建設的に、前向きに話し合いましょう。何度も言いますが、トラブルを避けるため、選手は匿名での参加を義務づけます。会合の写真にも収まらないようにしてください。私から参加要請することもありません。また、現役選手の参加メンバーの誰それが出席した、という情報漏洩も絶対にしないでください。噂もしないでください。噂話のレベルですら、トラブルに発展するのが多すぎます。それがこの業界の現状を象徴しているのかもしれません。

ファンの方も参加可能ですが、キック界をより良くしたいという前向きな考えをお持ちの方、またはお金、モノ、専門知識など具体的なものを持って協力してくださる方がいらしたら、ぜひご参加、ご賛同をいただきたいです。ご意見がありましたら各種SNSからのメッセージ、このサイトのコンタクトからお問い合わせください。何しろ、私一人の力では、弱小過ぎてどうにもなりません。私には現時点では想いを継いだ志しかありません。業界を変えてやろうだとか、そんな大言壮語を吐くつもりもありません。無論、新しいキック団体を立ち上げるというわけでもありません。ましてや、既存のキック団体を潰してやろうというわけでもありません。団体やジムと反目し合うつもりは毛頭ないのです。そのことはこの場を借りまして、団体関係者、ジム関係者の方々にお伝えしたい。ただ私は、選手にとって、より良い環境で戦ってもらいたいと願っているだけです。選手と団体、選手とジムに対し、話し合いの場ができ、互いの妥協点を探り合えるような良好な関係を望みます。

そして最後に、すでに無償でいろいろと動いてはおりますが、私にはそこまでの金銭的、時間的余裕はありません。そこが江口さんと私との違いです。力及ばず申し訳ありません。将来的に運良く協力者が現れ、自分の活動費が生み出せそうになったら「最低限」の報酬はいただくことにはなります。その点はご理解ください。暴利を貪るようなことはしません。その点は、今までの私を見て信用していただくほかありません。必ず選手にも還元します。月間あるいは年間表彰選手などを作って、最新のiPadみたいなものをプレゼントしたいですね。ふふふ、わかる人にはわかる、よね?

活動の経緯も、このサイトかあるいは別の機会でも、なるだけ細かく皆さんと共有し、シェアしていきたいと思っています。具体的なお手伝いや、金銭的な支援がなくとも、見守ってくれることもまた、大きな助けになります。とにかく私は皆で新しい流れを作っていきたいと考えているのです。

想いを志に。

それをテーマに一歩踏み出しましょう。一緒に作っていきましょう。大好きなキックボクシングが世間に認められるように。

明るく生こまい
佐藤嘉洋