三才の金魚が水から飛び出して死んでいた

posted : 2021/07/24

朝起きると、三才の金魚が水から飛び出して死んでいた。

朝起きると、三才の金魚が水から飛び出して死んでいた。仮にもし、自由を求めて自ら外に飛び出したとして、はたして金魚は納得できただろうか。

水の中ならエサももらえ、そこそこ快適な環境だったはず。「もっと良いところへ」と飛び出した結果、「こんなはずじゃなかった」と死んでしまった。

蟻が、金魚を食べ始めていた。

私は小学生の頃から金魚が好きで、飼育だけでなく、産卵にも手を出していた。金魚を長生きさせるには、彼らのことを勉強するしかない。

私は名古屋北図書館と東図書館に自転車で通い、置いてある金魚の本を何度も読み返した。
学校では、「金魚博士」と呼ばれていた時期もある。

家の近所のオズモールにあった早川金魚店にしばしば寄っては、水槽を眺めていた。

私は「日本一のらんちゅうを育てるんだ」と意気込んでいて、本で学んだ知識を店主のおじさんにぶつけ、実際に使えるかどうかをよく尋ねていた。

おじさんも親身になっていろいろと教えてくれた。
有り難い話である。

フルーツの食べられない息子と、岡崎のぶどう狩りに行ったことがある。

出店もいくつかあって、そこで息子が救った命が、冒頭の水から飛び出してしまった金魚である。

金魚すくいの金魚は、大魚のエサにもされるし、雑魚に近い。しかしせっかくの縁である。

元・金魚博士として面倒を見てやろうと思った。
『ポニョ』と娘が名づけた。

金魚の活動より、水草の働きが大きい場合、水はあまり汚れない。
これは文系の私でもわかるが、ある日、驚くべき発見をした。
水が汚いと水草の育ちは良くなり、逆に水が綺麗だと、水草の育ちは悪くなるのだ。

また、増えすぎた水草を間引くと、残った水草が勢いよく育ち始め、何日か経つと元に戻り、そしてまた成長がにぶる。

もし地球もこれと同じなら、森林を伐採しても、また必要な分だけ勢いよく育つことになる。

環境保護とは、一体何を守っているのか。

ポニョの死骸は、排水溝にあった。
水は無く、干からびていた。
その変わり果てた姿を見て、私はぎょっとしてしまった。そして、蟻のたかる異形の物体の尻尾をつまみ、草むらに置いた。

しばらく亡骸を見つめながら、三年間の思い出を振り返った。

自分の中にあるポニョの魂を、その干からびた身体に投映した。すると、愛情がよみがえった。

忌み嫌うことなく、手の平で優しく包み込むことができた。

庭の畑に埋めてやろうとして穴を掘ると、ミミズもいた。私はポニョを蟻ごと土に埋め、今殺生したその手で、合掌した。

ポニョはやがて分解され、養分になり、畑の肥しになる。その畑で取れたミニトマトを、私は「おいしい」と食べる。

実はもう一匹、「プニョ」という金魚が生き残っている。

当初はプニョも不安そうにしていたが、今は少し落ち着いてきた。この子も、最後まで面倒みよう。

ところで、話を台無しにするようだけれど、本当に君はプニョの方なのかな。

言い切る自信はない。ほとんど同じに見えたから。

PS
エサの食べ方で、今はプニョだと確信しています。

【コラム掲載】月刊ぶるーと通信vol.162通販
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