
7月のその日、新大久保にて。
text : 柴崎卓郎
引退記者会見のその日、佐藤嘉洋は何を考えていたのか――。現場に同行した編集ライターによる雑記。
その日、僕たちは1時間ほど前に記者会見を行う会議室に入った。
部屋には誰もいなく、閉め切られていたせいでとても蒸し暑い。
すでに汗だくになっていた彼は、ジャケットを脱ぎ捨て、なかなか効かない冷房のスイッチをせわしなくいじった。
人生で二度とない大きな決断を前に、もしかしたら少し緊張していたのかもしれない。
実際、直前まで自分の彼女のことを語るように大好きな川村ゆきえの話をし、その流れで「最近お気に入りの女子、トップ20」を饒舌に披露していたのに、会見がはじまると急に言葉数が少なくなり、神妙な面持ちになりながら指先で膝の上を叩いている――。
引退会見の様子は、すぐさまネットニュースに流れた。
記録の一環として、念のため各媒体の記事のURLをあげてみよう。
・スポーツナビ
http://sports.yahoo.co.jp/sports/fight/all/2015/columndtl/201507220001-spnavi
・東スポWEB
http://www.tokyo-sports.co.jp/prores/mens_prores/424486/
http://www.tokyo-sports.co.jp/prores/mens_prores/424124/
・イーファイト
http://efight.jp/news-20150721_188174
・デイリースポーツ
http://www.daily.co.jp/newsflash/ring/2015/07/21/0008230259.shtml
・日刊スポーツ
http://www.nikkansports.com/battle/news/1510787.html
こうして改めてニュースを読んでみると、どの記事の中の佐藤嘉洋も、とても冷静である。
格闘家としての人生について言葉を選びながら説明する一方で、「自分はスター性がない、華がない、オーラがない、“3ない”ファイターだった」と自虐し、丁寧に「もし引退試合で戦うとしたら、魔裟斗しかいない」とリップサービスを口にする。
ひと言でいうなら、飄々としている。
でも、それが板につくほど、この人は長い間自分自身と戦ってきたのだとも感じた。
17年間という時間は、やっぱり長い。
会見が終わったあと、「気になっているつけ麺屋がある」ということで、ふたりで昼食をとりにいった。
食事が来るまで熱心にスマホをいじっている彼に「佐藤さん、緊張した?」と聞くと、「『本当に引退するんだなー、オレ』と思いました」とだけ言う。
内心は一向に見えて来ない。
佐藤嘉洋は、あの日、いったい何を考えていたのか。
これからの「新しい何か」の第一歩を待ちわびる一方で、まずはそのことを存分に聞いてみたい。
それから、入れ替わりが激しいという「最近お気に入りの女子、トップ20」についても、もちろんじっくり話してもらおう。
ファンのひとりとして。
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