posted : 2021/12/17

【具鷲小説とは】
作者の構想力と読者の想像力によって、顔、声、性格などを意のおもむくままに描写し、読者それぞれ独自の想像世界を構築させることを目的とする散文学。読者は、文字だけで世界を構築できることに希望を抱き、自分の想像力があれば宇宙の果てまで行けることに驚嘆する、かもしれない。
〔具鷲辞典零版〕

〜 明るい陰謀論 〜


本来なら10年以上時間のかかるワクチン開発が、たったの1年超で量産体制に入ることができた。ある程度の犠牲はあったが、医学は驚異的な進歩を遂げたといえる。
 
新種のワクチンは年々開発され、近い将来あらゆる病気のワクチンができる。多くの人間は、健康のまま寿命を迎えるようになる。

さて、新型コロナ騒動の経験から、抵抗力のある身体を作る流行が日本に定着し、健康産業の経済規模は1兆円を超えるように。ちなみに2018年は4790億円。
 
「買い物くらい身体動かせ」と、さだまさしさんも歌っていたが、AI等の進化で、人間は日常生活においてさらに身体を動かさなくなる。

多くの人が家では運動できない。ジムの形態、規模も多様化し需要はさらに広がる。
 
また、手洗いの重要性が全国民に行き届き、水資源の豊富な日本は風邪を一時的に撲滅するという快挙を達成。
その後も、ただの風邪、ひどい風邪、いろいろな風邪が流行りかけるが、日本に住む多くの人の自助努力により、一季節で撲滅するように。

……ワクチンパスポートは早々に廃止となったが、風邪を引いているとほぼ正確に認識される機械が空港に置かれた。電車は控えめな会話が常識に。
 
ホテルの玄関には靴底を半永久的に消毒する交換式のカーペットが敷かれ、新築のホテルでは部屋の入り口で靴を脱ぐ仕様が標準になり、靴を履いたままベッドに寝転がる行為はマナー違反となった。また、ベッドスローは装飾として残された。
 
このような働きかけのおかげで、移動で風邪を引く者は驚くほど減少した。移動は風邪の元というのも過去の話になった。
 
コロナ禍における度重なる自粛期間で、心身を喪失する者も続出した。当初はマイナス面も心配されたが、後年プラス面も判明した。
 
マスク会食の時期に出会って結婚した人は、離婚率が低かったのである。マスク効果でより魅力的に映ったのに加え、顔が見えない分、相手の中身をより知ろうとしたからだとの説も。
 
スポーツジムでは、適宜マスク着用で運動するのが数年続いた。世界戦のボクサーのごとく低酸素トレーニングの効果が一般層にも浸透し、コロナ禍でもジムで運動を続けた者の肺活量は、総じて上昇。ぜんそくが改善したとの報告も多数。

……子どもたちの貴重な行事が中止となり、思い出を失った傷は大きいように思われた。しかし、家族との時間も増えたことで、自粛の思い出もまた楽しく語れるように。
 
ITを駆使した交流も、若者を筆頭にさらに活発化した。たとえば、祖父母に孫の声を容易に届けられるようになり高齢者の健康寿命も伸びた。
 
何と言っても、風邪をほぼ撲滅している。健康であれば、自然に楽しくなる。

「100歳まで元気に働くがね」のキャッチコピーが名古屋で流行し、TV塔にも掲げられた。
 
健康な国民が増えたことで、当初は医療関係の損失も危ぶまれた。

が、冒頭のワクチンを含む予防医学が驚くべき発展を遂げ、健康な人が病院に訪れることも日常的になった。医療資源の充実する国々は豊富な力を集約させ、数々の難病を克服した。
 
余談。

親知らずは、無痛レーザーでの消滅処理が可能になり「俺たちの若い頃は」と、親知らず抜歯の武勇伝を語る者が数多く現れた。特に、顎の骨を削る完全埋伏歯の手術談は「えげつない」とされる。

……自粛期間に失業するかもしれないという危機感を抱き、仕事に対する姿勢が変わった者も多い。経済活動はより能率的になり、日本の国内総生産は世界一となった。
 
人々は健康のまま、生きたい者は生き、働きたい者は働いた。そして、人生を安らかに終える者が多くなった。