時の旅人

posted : 2022/12/28

「人間の行動を始めとするあらゆる現象がその流れの中で生起し、経験の世界から未経験の世界へと向かっていく中で、絶えず過ぎ去っていくととらえられる二度と元には戻せないもの」と、ある世界の、ある時代の、ある工場の中に張り出されていた。それを見上げていた人に、30cm程度の小人が声をかけた。

「この看板は、ある言葉の語釈です」
「なぜ語釈だけなのですか」
「まずは自分なりに読み取り、意味を考えるためです。考えることが尊いと考えています。ということで、何の言葉を表しているのか、ぜひ考えてみてください」
「うーんなんだろう……時計か、それとも未来か?」

それを聞いた小人はうなずき、続けた。

「良い線ですよ。ただ、『経験から未経験の世界へと向かっていく中で』とあるので、この言葉は過去も未来も含まれます。また、時計はそれを知るためのものです」

看板を見ていた人は、時の旅人の帽子についていた時計を見つめ、ハッとした様子を見せた。

「ああわかった。時間ですね」
「当たりです。また、時間は『人間の行動を始め』としています。実は、時間を認識できるのは、人間だけなのかもしれません。ちなみに私は、人間ではありません。ああ、紹介が遅れました。私は、この工場の案内をしている時の旅人と申します。どうぞよろしく」

工場の機械たちは狂いなく動き、一定の熱を発していた。ちょうど冬だったので、工場内は心地よいとされる温度を保っていた。また、場内温度がある一定を上回ると、機械たちは順に止まった。

「良い塩梅で動かすと、長持ちもしやすいです。大量生産大量消費で、無駄の多い時代もありましたねえ」
「無駄使いをしている国が、無駄使いをしていない国に注意するという矛盾も見受けられた時代でした」
「まったく、救いようがなかったですねえ」

二人は嘆息しながら歩を進めた。

「ここが時の旅人の制作で、最も重要なところです。ある珍しい金属を多く手に入れたことによって、時の旅人計画がついに実現したのです」
「あれは驚天動地の知らせでした。なにしろ、世の中の常識を一変させましたからね」
「そこに至るまでの過程は大変なものでした。ある人たちの勇敢な行動のおかげでした」

二人は誇らしく胸を張った。実は二人は共に、時の旅人だった。一方が新作で、最終動作のチェック。もう一方が検品役で新作から案内を受けていた、というわけだ。

新作が合格かどうかのテストは続いている。

「時計の1秒、2秒だけが、時間だと思っていませんか。現在は過去であり未来でもある。それが真実です」
「よくわかりません。もう少し詳しくお願いします」
「時の流れが一定と決めているのは人間です。しかし、ある意味では一定していますが、ある意味では一定していません」

検品役の時の旅人は、新作の常識外の回答に頭を抱えて困ったフリをした。そして二人は、さらに工場の奥へと足を踏み入れた。テストも終盤だ。

「たとえば、人間が睡眠中に見る夢は、長いようで短い。また、つまらない話を聞くときは、5分が30分に感じることもある。また、10歳と50歳の人の1年は、互いに感じる時間の長さがまるで違う。時計の針の1秒、2秒は同じ刻みなのにも関わらず」
「時の流れは一つではない、と」
「つまり、この世界も一つではない、ということです」

ウィーンガシャン、という音が目の前で鳴った。上の方からファンファーレが聞こえ、機械的だけれど情熱的な「合格〜」というアナウンスがあった。そしてこの新作は、加工された珍しい金属を最後に埋め込まれ、時空を飛べる仕様になった。ここに貴重な新作の完成である。

「やあ、私は時の旅人」


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