【具鷲小説とは】
作者の構想力と読者の想像力によって、顔、声、性格などを意のおもむくままに描写し、読者それぞれ独自の想像世界を構築させることを目的とする散文学。読者は、文字だけで世界を構築できることに希望を抱き、自分の想像力があれば宇宙の果てまで行けることに驚嘆する、かもしれない。
〔具鷲辞典零版〕
〜 カエルの住む街ケール 〜
ここから遠いところに、ケールと呼ばれるカエルの住む街がある。若いカエルもいれば、年老いたカエルもいる。アマガエルもヒキガエルも、あらゆるカエルがいる。
ケールを治めるのは、勇猛果敢なヒキガエル。リーダーという愛称で、20年以上もの間、住民に親しまれている。けれども、すべてのカエルに支持されているわけでもない。豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格だったので、賛否両論は常にあり、嫌う人も一定数いた。
しかし、選ばれ続けてきたのには訳がある。第一に、街のカエルたちが住みやすいよう環境を整えた。水をキレイにし、蛇などの天敵から身を守る方法も考え、住民の寿命を引き延ばした。
噂は付近の町村にも届き、ケールのカエルの数は増えた。ケールに住むカエルの多くは、今の生活に概ね満足していた。失言など問題も多いリーダーだったが、芯は誠実だったから住民の多くは、「いつものことだ」と笑った。
リーダーを嫌うカエルは、若い世代に多かった。他の場所より自由で安全に暮らせるようにしたのがリーダーの功績だと、若いカエルの多くは知らなかった。あるとき、ケールの若いカエルのグループが、合唱コンテストで優勝した。
メンバー全員で、リーダーのところへ表敬訪問に赴いた。しかしメンバーの多くは、リーダー自身への報告よりも、その先にある御馳走や露出や称賛が目当てだった。
リーダー自身は音痴だったこともあり、ケール最大の催し物で優勝した音楽家たちを尊敬していた。リーダーがメンバーの一匹に、賞品である金のコオロギを持たせて欲しいと頼むと、快諾してくれた。
住民の優勝に興奮したリーダーは、その金のコオロギを手にするやいなや、悪ふざけでパクっとかじって見せた。その話は、ケール中に瞬く間に広まった。ケールに住むカエルの多くは、「いつものことだ」と笑った。
が、これをチャンスと見た反リーダーのカエルは、通称、正義のカエルに報告した。
正義のカエルは、リーダーの過去の失言などを掘り起こし、一緒に情報を拡散した。当然、これまでの功績には触れない。付近の町村だけでなく、内情をよく知らない遠い街にも、あっと言う間に知れ渡った。
「非常識だ」「失礼だ」「汚ない」「死ねばいいのに」など多くの声が、リーダーの元に寄せられた。
ケールの反リーダーのカエルも、
「よし、今しかない!」
と、リーダーが作り上げた自由で安全な街ケールから、ここぞとばかりにリーダーを糾弾した。
かじられたメンバーの少数は、リーダーの功績を親ガエルから聞かされていた。だから一連の騒動に悲しむ様子を見せた。しかし正義のカエルは「嘘だ。内心は怒っているはずだ」と、信じなかった。
リーダーは、金のコオロギを弁償する羽目になった。しかし、これまでの功績もあったので、ケールではそれ以上咎められはしなかった。
内情をよく知らない正義のカエルは、自分のおかげで弁償に繋がったと、ほくそ笑んだ。そして今日も、誰かを傷つけることで、自分の存在意義を見出している。
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【 カエルの街ケール 】
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